この記事では、全波整流回路を設計する際のアルミ電解コンデンサの選定方法について解説します。
なぜアルミ電解コンデンサを使うか?
コンデンサといっても、世の中にはいろいろな種類のコンデンサがあります。整流回路でなぜアルミ電解コンデンサが良く使われるかについて簡単に説明したいと思います。
整流回路でアルミ電解コンデンサを使う理由としては、小型でありながら静電容量を大きく取れる、コストが安いという点です。
整流回路では、機器にもよりますが数百uF~数千uFといった比較的大きな静電容量が必要になってきます。例えば、積層セラミックコンデンサは、耐圧630Vでは4700pF程度までしかラインナップがありません。また、フィルムコンデンサについても、耐圧630Vでは1~数十uF程度までしかラインアップがありません。これらで、数百uFの静電容量を稼ぐには非常に多くの部品を並列接続する必要があり、コスト高くなり、実装面積も多く必要になってしまいます。
一方で、デメリットとしては寿命が短いということがあります。アルミ電解コンデンサは、周囲の温度や自己発熱により内部の電解液が徐々に蒸発し、容量が減少していきます。そのため、メーカーの仕様をよく確認し、目的の寿命を満足するか十分に確認する必要があります。
アルミ電解コンデンサ選定の流れ
①定格電圧を決める
設計する対象で必要な定格電圧を決定します。
例えば、入力電圧AC200~240Vの整流回路を設計する場合は、整流後の電圧は約340Vとなります。実際は、入力電圧の許容差で10%程度考慮し、約373V程度になることは想定されます。ニチコンというメーカーでは電圧定格350V、400V、420Vというラインナップがあるため、電圧定格400Vを選択します。
②静電容量を決める
必要な静電容量を決定します。
静電容量を決定するにあたって、次の2点を確認します。
①接続する負荷の出力電流はどの程度を想定するか
②接続する負荷の出力電圧の許容範囲はどの程度を想定するか
まず、①の出力電流については、平滑回路の後段の回路ブロック(例えば、電源回路やインバーター回路)がどのくらいの電流を引っ張るかを明確にします。
次に、②の出力電圧範囲については、平滑回路の後段の回路ブロック(例えば、電源回路やインバーター回路)において、どの程度までの電圧の脈動まで許容できるかを明確にします。
上記2点から、要求を満たす静電容量を決定します。
平滑コンデンサの役割は、整流した半波波形を平滑して電圧の脈動(リプル)の少ないDC波形に近づけることです。電圧リプルは静電容量と出力電流によって大きく変わってきますが、具体的にどの程度影響があるのかについては、以下の記事で解説していますので興味がある方はご確認ください。
③サイズ・形状・個数を見積もる
部品サイズ、形状、使用個数を見積もります。設計する製品に応じて、アルミ電解コンデンサのサイズや形状もある程度決まってきます。
決めていく必要のある項目としては、使用個数(静電容量値に対して複数個並列接続するかなど)、直径、高さ、実装の方法(マウンタ実装、手実装)、端子形状(チップ型、リード線型、基板自立型、ねじ端子型)などです。
使用個数については、②で決定した静電容量に対して、アルミ電解コンデンサ1個で実現するか、複数個並列接続して実現するかを決定します。大きいもの1個にするか、並列接続するかは、基板設計時の実装面積や、部品高さなどにも関係してくるので、構造面も含めて十分に考慮して決めます。
実装方法については、製造条件に応じて、チップ型、リード線型、基板自立型などから選びます。チップ型は比較的容量が小さいものが多いため、リード線型や基板自立型から選ぶことが多いと思います。アルミ電解コンデンサは大型になり振動で端子部分から折れる恐れもあるため、端子形状は振動への耐性も考慮して決める必要があります。高さを抑えるためアルミ電解コンデンサを寝かせて実装したい場合には、リード線型を選ぶこともあります。
このように、構造面や製造面も考慮して、部品サイズや形状は決定していきます。
④必要な定格リプル電流を見積もる
必要な定格リプル電流を見積もります。
アルミ電解コンデンサでは、定格リプル電流という仕様があります。リプル電流とは、コンデンサへの充電と放電により流れる電流です。リプル電流については、静電容量値と出力電流が分かっていればある程度シミュレーションであたり付けをすることはできます(最終的には、実機確認が必要ですが)。リプル電流については、以下の記事で解説しているので見ていただけるとわかりやすいです。
アルミ電解コンデンサの仕様書に書かれている定格リプル電流の値は、そのコンデンサの使用可能上限温度(例えば、85℃など)での定格値になります。実際は、使用する温度によって温度補正(温度によって定格リプル値の緩和ができる係数)をした値で、仕様範囲内で使用できているか判断します。温度補正係数は通常はデータシートには記載がないため、メーカーに問い合わせを行う必要があります。
⑤耐久時間(寿命)を見積もる
アルミ電解コンデンサには、寿命があります。内部の電解液の蒸発により容量が低下するためです。容量が低下すると、本来想定していた回路動作が実現できなくなる可能性があります。製品等に使用する場合は5年や10年の寿命を確保するのが一般的だと思います。
アルミ電解コンデンサの寿命に大きく起因する要素は温度です。一般に「10℃ 2倍速則」と言われる「アレニウスの法則」により、温度が10℃下がると寿命が2倍になります。例えば、85℃で3000時間のアルミ電解コンデンサを温度75℃で使用すると、寿命は2倍の6000時間程度になります。温度65℃で使用すると、寿命はさらに2倍の12000時間程度になります。(あくまでも概算です)
実際には、各メーカーが提供している寿命算出式に基づいて寿命計算を行います。寿命には周囲温度、リプル電流による自己発熱、印加電圧とそれぞれの影響が考慮されます。
最終的には実機での評価
アルミ電解コンデンサを選定する際の大まかな手順について解説しました。最終的には、実機にて波形確認や温度確認を行い、各仕様値を満たしているか十分に評価する必要があります。
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